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店名の由来

 「BOOKSじのん」という店名について説明させていただきます。

 「当店の歴史」のページでも最初に触れておりますように、当店の前身は
1981年創業のロマン書房です。その後いくつかの支店を展開するように
なって、宜野湾市にある店舗は「ロマン書房本店」と呼び分けるようになり
ました。

 そのロマン書房本店から現在の「BOOKSじのん」に店名が変わったの
は1997年2月のことです。そのあたりの状況説明は「当店の歴史」の方
に譲りますが(ただし、この文章を綴っている2001年7月25日現在、まだ
そこまで書き進んでおりません。現在未完で、「続く」となっております)、一
言で簡単に言えば、ロマン書房本店及び同一経営者の傘下にあったいく
つかの店舗が倒産したことが店名変更の理由です。詳しくは「当店の歴史」
の進捗をお待ち下さい。
 
 さて、「BOOKSじのん」の「じのん」というのはどういう意味ですか? と
の質問が多いので、このページを設定する必要を感じたわけですが、まず
は当店あての郵便物に時折見られるところの勘違いをご紹介します。

BOOKSじんの………… 最も多い間違いで、「神野(もしくは陣野)」という
                姓からとった店名だと思われているのでしょう。
                他府県の方にこう間違う人は多いですが、ここ沖
                縄ではまず聞かない姓です。

BOOKSジュノン…………月刊誌の影響か? あいにく当方、フランス語は
                使えません。

BOOKSしのん …………一番近い。「紫音」とか「Sinon」という名の女性歌
                手(後の方は沖縄・今帰仁村出身)もおりました。
                国語辞典に載っていない単語なのですが、なんか
                自然なネーミングという感じではあります。しかし、
                「刷毛」と「ハゲ」に大いに違いがあるようなもので、
                残念ながらこれも「ブー!」

 「じのん」は、所在地「宜野湾(ぎのわん)」の方言名「じのーん」から採らせ
てもらいました。方言名そのままだとちょっと間延びした感じがするので、音
を伸ばさない形にデフォルメしたのです。ですから「BOOKSじのん」は、つま
るところ「BOOKS宜野湾」です。

 宜野湾を方言で「じのーん」と言うことは、沖縄の若い世代はもちろん、40
代50代の方でも地域によっては知らない人も多いみたいです。実は私も宜
野湾市出身なのですが、幼い頃から日常的に方言を使用する環境で育た
なかったこともあり、知ったのは恥ずかしながら30代半ばになってからでし
た。

 きっかけはその頃市内に新しくオープンした、ある沖縄そばのお店の名前
が「じのーんそば」だったことです。この店名を見て、これは多分方言で「宜
野湾」のことなのだろうとは予想がつきました(大学で琉球方言研究クラブと
いうサークルに所属して多少は勉強したせいで、方言の「訛りかた」につい
て類推がきいたのです)。念のためそれを確認するべく『宜野湾市史』を繰っ
たところ、はたしてそこにはちゃんと「じのーん」が載っておりました。

 たとえば『宜野湾市史』第二巻(資料編1 新聞集成)の巻頭2ページ目に
は、かつて名勝として名を馳せた宜野湾街道の松並木を、「宜野湾並松」と
いう表題で写真付きで紹介していますが、その横には「ジノーンナンマチ」と
方言のルビが振られています。また別の巻では「ジノーンチュ」という言葉を
見つけることもできました。これは「宜野湾の人」を表す方言です。「沖縄の
人」を表す「ウチナーンチュ」という方言を知っている人には理解できる語の
作り方だと思います。

 後者が「ウチナー・ン・チュ(沖縄・の・人)」と分解できるのに対し、「ジノー
ンチュ」の場合は「ジノーン・チュ(宜野湾・人)」となり、同音ンの連続を避け
て格助詞が脱落している形です。元来はそれぞれ「ウチナー・ヌ・ッチュ(沖
縄・の・人)」「ジノーン・ヌ・ッチュ(宜野湾・の・人)」という組み合わせですが、
よりなめらかに発音しやすい形に変化しているわけです。この点については、
かつて別の雑文(「『浮き名の今日』にさようなら」)でも少し書いたことがあり
ます。このHPにも再録しておりますので、よろしければ併せて読んでみて下
さい。
  
 ところで、この「じのん」という名前、名付け親の私にしてみれば自信作の
つもりなのですが、わかりにくさもあってか、ハッキリ言って不評です。旧店
名時代からの顧客のなかには、「なぜ、名前を変えたの? ロマン書房って
いい名前だったのに。もったいない!」とお叱りにも似た感想を投げかける
方もいらっしゃいます。大変ありがたい反面、こちらだって16年も慣れ親し
んだ店名を好き好んで変えたわけではないんだ、やむにやまれぬ事情があ
ったんだ、と声を荒げたくもなります(もちろんやりませんが)。

 ロマン書房という店名は、確かに子どもでもすぐに覚えてくれるでしょう。あ
ちこちに「ロマン書房○○店」といった支店を出しまくった歴史もあり、この店
名の浸透度はかなりのものだと思います。今はどうか知りませんが、仮に数
年前に「沖縄で古本屋と言えばどこ?」との県内アンケートでも実施したのな
ら、ロマン書房はまず間違いなくトップの得票を得たと思います。

 知人の一人は、せっかくのネームバリューを失うのはもったいないからと、
店名を変えるにしても「新ロマン書房」とか「ロマン書房新社」のようにして、
ロマンという語は残した方がいいんじゃないか、と提案してくれましたが、旧
店名時代末期のゴタゴタにひどく痛めつけられたせいで、過去をきれいさっ
ぱり捨て去りたいという理由もあったため、この案が生きるとはありません
でした。

 半分以上ジョークではありますが、今なら「マロン書房」なんてどうだったか
な、と考えます。ロマンからマロンなら関連性を感じてくれる顧客もいそうです
し。テレビで大々的に店名変更のコマーシャルをうちましょう。織田裕二に出
演してもらい、一言こうつぶやいてもらいます。マロ~ン!
                             ……失礼いたしました。

 旧店名に関してはそのようなありがたい評価があった反面、「ロマン」という
言葉から連想される一種怪しげな雰囲気に戸惑う客がいたことも報告してお
きましょう。

 一時期まねごとで出版活動にも手をだしておりましたが、当店が発行した
本を注文するとき、注文票の出版社の欄に「ロマン書房」と書くのがたまらな
く恥ずかしかった、と告白してくれた知人もおりました。県内の同業者の一人
からは、そのものズバリで「日活ロマン書房」と揶揄されたこともあります。あ
の時代は多くの古本屋がそうでしたが、「ビニ本」(懐かしい!)で儲けてた頃
でしたから、「おお、いい名前じゃん!」と軽く受け流せる雰囲気がありました
ね。
 
 今はそういう感じですが、この新店名で営業を長くねばり強く続けていくうち
に、「じのん」という固有名詞がきわめて自然に客の口元から発せられる日が
来ることを信じて、頑張りたいと思っています。終わり。

 
by booksjinon | 2012-01-11 14:20 | 店名の由来